大判例

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広島高等裁判所岡山支部 昭和30年(う)156号 判決

所論の要旨は被告人が焼毀した本件炭焼小屋は横田建二が被告人所有のコソボソ地籍内で盗伐した雑木を主たる材料とし之を組合せ繩を以つて縛りつけ小屋としての形を作つてはいるが、繩を切れば何時にても小屋としての形態を失う状況のものであるから刑法第百九条第一項の建造物に該当しない。又右小屋は主たる材料は被告人所有の雑木を組合せて造り、藁、杉皮、茅を使用して小屋がけをしておるが、藁や杉皮などは従物であつて右小屋の主体は被告人所有の雑木を使用しているのであるから、本件小屋は被告人所有のものであり、その上之を焼毀するについては何等公共の危険はなかつたものであるから、処罰の対象とはならないものである。

然るに原判決は之等の点を誤認し、被告人が人の住居に使用しない横田建二所有の建物を焼毀したと認定したのは、判決に影響を及ぼすことが明かな事実誤認の違法を犯したものであるというのである。

そこで先ず第一に被告人が焼毀した本件の炭焼小屋が刑法第百九条にいわゆる建造物に該当するか否かについて検討するに、原審及び当審に於ける検証の結果、被告人の当公廷に於ける供述、原審及び当審に於ける証人横田建二の供述を綜合すると、右炭焼小屋はいわゆる堀立小屋で間口約三米七十五糎、奥行約八米三十糎あるが、小屋の材料は雑木を丸太のままで組合せ藁繩で縛りつけ、上部には藁(直径三寸位の束を約三十束用いたという)と附近地上に生えていた茅とを並べて雨露を凌ぐに足る屋根となし、西側の裾には一束分程の杉皮を用いて囲い優に人の出入するに足るものであることが認められる。たとえ所論のように繩を切れば何時にも小屋としての形態を失うものではあるが、然らざる限り土地に定着し、屋根もあり、裾も囲い、人が出入して、此処に物を保管し、作業をすることも可能な一種の工作物ということが出来るから建造物というに妨げがない。

第二に右炭焼小屋が何人の所有に属するものであるかという点について検討すると、小屋の所在する土地は前記の如くコソボソと称し、被告人の所有地であるが、右の小屋を建てた横田建二は同地上に在つた立木を之に隣接して北上部に在るヤソウ畑地内の立木と共に被告人から買受けたといい、同人及び金田孝は原審に於て証人として之に符合する供述をしておるのである。然しながら押収に係る立木売買契約書その他の書面にはコソボソ地内の立木については全く記載がない。横田建二が原審に於て証人として、被告人と売買契約をした後森林組合に対する届出については印鑑を渡して一切の手続を被告人に依頼したので、恰も被告人がコソボソ地内の立木については特に記載しないで届出をした結果であるかのように供述しておるのであるが、被告人がコソボソ地内の立木を売却しておきながら印鑑を預つたのを奇貨とし計画的に横田建二を欺いて故意に森林組合に対する届出をしなかつた結果であるとは認められない。加うるに之等の書類の記載と鑑定人中江一二三の鑑定の結果、同人及び赤木道代の原審に於ての証人としての供述を綜合すると、前記証人金田孝、同横田建二の供述するところに反し、コソボソ地内の立木は被告人が原審以来主張しておるようにヤソウ畑地内の立木のみは横田建二に売却したが、コソボソ地内の立木は売却したものではないと認めざるを得ない。

そして当審に於ける検証の結果、被告人の当公廷に於ける供述を綜合すると、右小屋に用いた雑木(骨組のすべて)や茅のすべては横田建二が右コソボソ地内に於て盗伐したものであることが認められるから、右小屋の材料の大部分は被告人の所有に属するものと認められる。従つて横田建二がたとえ同人所有の藁や繩や杉皮などをも使用して右小屋を造り上げたとしても、それらのものは被告人の所有に属する右の材料に対しては全く従たる部分の材料に過ぎないから、右小屋の所有権は横田建二にあるわけはなく、主たる材料の所有者である被告人の所有に属するものであることは民法の規定(第二百四十三条)に照らして明かである。

又被告人が右小屋を焼毀した当時小屋の外焼毀した物件について考察すると、被告人の当公廷に於ける供述によると、焼毀に際し小屋の内部にあつた鍬などの道具類、炭俵などは他に運び出し、横田建二所有の杉皮と共に焼失を免れしめたということであり、更に又炭竈の中で製炭中の原木が全部焼失したことは証人横田建二も被告人も共に当審に於て認めているところではあるが、既に認定したように横田建二がコソボソ地内の立木を盗伐した事実と被告人の当公廷に於ける供述とを併せて考えると、之亦横田建二が右コソボソ地内に於て盗伐したものに外ならないから、元々被告人の所有に属するものである。

すると被告人は右小屋以外の物件についても、被告人の所有に属しない何等の物件をも焼毀せしめたものはないと認めることが出来る。

第三に公共の危険の有無については、当審で取調べた結果によると、本件炭焼小屋の所在した場所は麓に並存ずる人家から雑木林など(麓から往復する通路に当る中腹一帯の箇所には三椏の密生した畑がある)を隔てゝ直線距離にても三百米以上の山腹に在り、小屋の北側には炭竈を設け、前面は平坦に土盛をなし、周辺の雑木はすべて切り払われ、切株からは既に若芽が萠え出ており、引火延焼の危険のある物は何物も存在しなかつたといい、その上前夜来の雨は小降りながらも放火当時尚降りつづいて居り、被告人も亦附近一帯が被告人所有の山林であるところから、附近に延焼することのないよう監視しつつ焼毀したというのである。このような状態から見れば他に延焼する危険は毛頭なかつたものと認め得べく、ましてや附近の部落民の中にも延焼の危険を感じたという者も全く認めることは出来ない。

即ち被告人の主観に於ても、はたまた客観的な状勢に於ても延焼の危険を感ずるという何物もない遠く人家を離れた山腹の炭焼小屋を焼毀したものであつて見れば、公共の危険があつたとは毫も認められない。

すると被告人は他人の所有に係る如何なる物件をも焼毀していない、焼毀したものは被告人所有の炭焼小屋のみである。しかも之が焼毀に当つては少しも公共に危険を及ぼしたものではないから、刑法第百九条第二項の規定に従つて被告人の所為は処罰し得ないものである。

然るに原判決は以上の諸点を誤認し、被告人が横田建二の炭焼小屋を焼毀したとて、刑法第百九条第一項を適用して処断したことは明かに判決に影響を及ぼすことの明かな事実誤認の違法を犯し、延いては法令の適用を誤つたもので、原判決は破毀を免れない。

論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二条に則つて原判決を破棄し、同法第四百条但書の規定に従つて更に判決する。

本件の公訴事実は、被告人は昭和二十八年八月上旬頃横田建二に対し自己所有に係る苫田郡富村大字富仲間字ヤソウ畑三百五番地及び同所コソボソ三百四番地の一部に各所在する製炭材立木を代金九万円にて売却し伐採期限も同二十九年五月末日迄とすることを承諾していたのに拘らず、同月十六日横田建二に対し伐採期限を経過しているから作業をやめてくれ、やめなければ炭俵等を焼いてやる旨申向けたが同人が未だ期限内であることを主張して譲らなかつたことに立腹の上、翌十七日前記コソボソ所在の横田建二に係る炭小屋兼作業場を焼毀しようと決意し、午前六時三十分頃同所に赴いた上所在の丸太を以つて密閉してあつた製炭中の竈の焚口を破壊し炭俵を棒の先に吊してその中に突込み之に点火した上、右小屋の西側廂に放火し因つて人の現住しない前記縦八米三十糎位、横三米八十糎位の杉皮、藁葺平家建小屋一棟を焼毀したものである。

というのであつて被告人が前認の如き炭焼小屋を焼毀した事実は原審に於て取調べた証拠によつて優に之を認めることは出来る。

然し前段に於て説示した如く原審に於て取調べた証拠及び当審に於ける事実取調べの結果を綜合すると、被告人はヤソウ畑地内の立木は横田建二に売却したが、コソボソ地内の立木は売却したものではないのに、同人は之を擅に伐採し、此の地内の雑木、茅等を主たる材料として之に同人所有の藁、杉皮、繩などを加えて、本件の炭焼小屋を造つたものであることが認められる。すると本件小屋はその主たる材料の所有者である被告人の所有に属し、横田建二の所有ではなく、その他被告人は前段説示の如く被告人以外の者の所有に属する如何なる物件をも焼毀したものではないと認めることが出来る。加うるに被告人が右小屋を焼毀するに際しては、何等公共に危険を及ぼしたものと認め難いことも既に説示したとおりであるから、被告人の所為は刑法第百九条第二項但書の規定に従つて罰することを得ないものと認めざるを得ない。

そこで刑事訴訟法第三百三十六条の規定に従つて無罪の言渡をなすべきものとする。

(裁判長判事 宮本誉志男 判事 浅野猛人 判事 菅納新太郎)

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